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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

確かに父は十分に魅力的だった。母より六つ年上の父はその時、三十七の男盛りだった。精悍さの備わった男ぶりは評判でもあり、母の死後、父に差し入れと称して手作りの惣菜を持ってきたりする女は数知れなかった。だが、父はお彩のことを気遣い、再婚する気はないようだった。
―良い女(ひと)がいるのなら、そのひとと一緒になったら良いのよ。
お彩がそれとはなしに勧めても、父は真顔で首を振った。
―俺はお前が一人前になるまで、再婚なんかしねえよ。いや、お前が嫁にいったって、いつ帰ってくるか判らねえから、女房なんか持てやしねえ。
いや、あんなことを言っていたけれど、本当は、ただ母を忘れられないでいたという、ただそれだけの理由だったのかもしれない。父は心底母に惚れていた。
―良い女(ひと)がいるのなら、そのひとと一緒になったら良いのよ。
お彩がそれとはなしに勧めても、父は真顔で首を振った。
―俺はお前が一人前になるまで、再婚なんかしねえよ。いや、お前が嫁にいったって、いつ帰ってくるか判らねえから、女房なんか持てやしねえ。
いや、あんなことを言っていたけれど、本当は、ただ母を忘れられないでいたという、ただそれだけの理由だったのかもしれない。父は心底母に惚れていた。

