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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

父にとって母以上に愛せる女などこの世には存在しないに違いない。そこまで考えると、お彩は亡き母に妬ましささえ憶え―、そんな自分の心の醜さに気付き、更に落ち込み自己嫌悪に陥るのだった。
そんな状態でお彩が父と同じ屋根の下に暮らせる道理もなかった。お彩は甚平店からも遠くない長屋に移り住み、ほどなく「花がすみ」に通いで奉公することになった。本当なら父からもっと離れたかったのだが、そのくせ、父を一人にしてはおけないという不安もあって、結局、甚平店とは眼と鼻の先の場所に落ち着くことになってしまった。が、男一人の所帯とはいえ、父は料理もこなせるし、洗濯もする。別段、お彩が側にいないからといって、何に不自由することも困ることもないのだから、やはり、それは父が心配というよりはお彩自身の父の側を離れたくないという願望にすぎなかったのだろう。
そんな状態でお彩が父と同じ屋根の下に暮らせる道理もなかった。お彩は甚平店からも遠くない長屋に移り住み、ほどなく「花がすみ」に通いで奉公することになった。本当なら父からもっと離れたかったのだが、そのくせ、父を一人にしてはおけないという不安もあって、結局、甚平店とは眼と鼻の先の場所に落ち着くことになってしまった。が、男一人の所帯とはいえ、父は料理もこなせるし、洗濯もする。別段、お彩が側にいないからといって、何に不自由することも困ることもないのだから、やはり、それは父が心配というよりはお彩自身の父の側を離れたくないという願望にすぎなかったのだろう。

