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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第43章 第十六話 【睡蓮】 壱

かつては市兵衛も吉原には月に一、二度は訪れていたものだった。本籬「末廣(すえひろ)屋」の花魁若菜太夫がその敵娼(あいかた)であったが、若菜太夫は去年の春、越後の富裕な縮問屋の主人に落籍されて、既に吉原にはいない。この若菜太夫は市兵衛に心から惚れていたが、市兵衛は結局、若菜太夫とは一度も男女の仲になることはなかった。いつも一刻ばかり彼女の許で、酒を飲んだり、うたた寝をしたりと、ゆったりとした時間を過ごした後、帰るのが常であった。
市兵衛自身は若菜太夫の気持ちにとうに気づいていた。若菜太夫が自分に寄せる想いの真摯さから、それに応えられる自分ではないと一度は遠ざかろうとしたこともある。
市兵衛自身は若菜太夫の気持ちにとうに気づいていた。若菜太夫が自分に寄せる想いの真摯さから、それに応えられる自分ではないと一度は遠ざかろうとしたこともある。

