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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第43章 第十六話 【睡蓮】 壱

その男こそ、江戸でも随一と謳われる呉服太物問屋京屋の主市兵衛であった。先ほどから主に付き従うのは手代頭の泰助である。今宵、京屋市兵衛は同業の呉服商が集う寄り合いに出席しての帰り道であった。寄り合いがひけた後は数人が吉原へ繰り出していき、市兵衛は気も進まぬままに、誘われた難波(なにわ)屋の主について登楼した。が、忘れ得ぬ女の面影を抱き続ける市兵衛は代わりの女を求める気にもなれず、難波屋の行きつけの本(ほん)籬(まがき)「安良(やすら)屋」の遣り手としばし世間話をした後、先に遊廓を後にしたのである。

