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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第31章 第十二話 【花見月の別れ】 其の弐

その話を、お彩はかつて伊勢次から聞いたことがまとある。この家に住むようになって日も浅い頃、お彩が不思議に思って、伊勢次に訊いたのである。
なにゆえ、弥生の桃の節句に飾るはずの雛が季節外れなその時分に出ているのか。その問いについて、伊勢次は、こう教えてくれた。
伊勢次の母おきわは手広く商いをしていた瀬戸物屋の娘であった。お彩にいきなり婚礼支度の晴れ着の仕立てを何着も頼んでくれた例の瀬戸物屋は、おきわの父方の遠縁に当たるのだ。何でも、おきわの叔父がおきわの父から金を借りて出した店だとかで、今はその倅―おきわにとっては従兄の代になってはいるが、日頃から、恩のある人の娘、しかも血続きということで、おきわのことを気にはかけているらしい。
なにゆえ、弥生の桃の節句に飾るはずの雛が季節外れなその時分に出ているのか。その問いについて、伊勢次は、こう教えてくれた。
伊勢次の母おきわは手広く商いをしていた瀬戸物屋の娘であった。お彩にいきなり婚礼支度の晴れ着の仕立てを何着も頼んでくれた例の瀬戸物屋は、おきわの父方の遠縁に当たるのだ。何でも、おきわの叔父がおきわの父から金を借りて出した店だとかで、今はその倅―おきわにとっては従兄の代になってはいるが、日頃から、恩のある人の娘、しかも血続きということで、おきわのことを気にはかけているらしい。

