この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

「クレイ、ゲラキ……」

 記憶を頼りに、涼子は呟いた。
 そう、あれはクレイゲラキだ。彼女が恋人から影響を受けたというウイスキーの名前。読み方がいくつかあり、恋人がそう呼んでいるのだと彼女は言っていた。


――バーテンダーは、あの人の天職なの。

――とにかくスコッチが好きでね。私も影響されちゃった。

――いつか自分のお店を持ちたいんだって。名前ももう考えてあるのよ。私も一緒に考えたの。涼子ちゃんにだけ教えてあげるわね。

――クレイ、よ。バー・クレイ。覚えておいてね。


 走馬灯のように駆けめぐる記憶の断片が、繋がっていく。


――Dead and turned to clay

――死んで、土に還る


 七夕の夜に、西嶋の店で聞いた言葉がよみがえる。

「ターン・トゥ・クレイ……」

 涼子の頭には、ある確信めいた仮説が浮かんだ。
 彼は、死んだ彼女の魂――いや、“肉体”が還ってくるように、切に願っている。十一年経った今でも。

 上体を起こして左胸に手を置き、放心する。次の瞬間、激しい頭痛に襲われた。

「うっ……」

 まるで誰かに責められているような、不快な錯覚に陥る。割れるような痛みの中、その声は唐突によみがえった。


――お前のせいだからな。


 張り裂けそうな心が叫ぶ。

――いやよ、思い出したくない……!

 今、それを思い出してしまったら、核心に触れてしまったら、もう二度と過去を克服できなくなるかもしれない。恐怖に震える心とは裏腹に、脳は勝手に記憶をたどり、やがてある日のある場所に行きついた――。
 あれは、十一年前の六月、放置された廃工場で起こった出来事。この目で見た光景が、まざまざと脳裏に浮かぶ。

/429ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ