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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

暗闇に閉ざされたフロア。吐き気がするような湿った空気。
壊れて穴が空いた天井から降り注ぐ雨。床にできた水溜まりをかすかに照らす月明かり。頬に落ちる雨のしずく。
右の頭部から腕、脇腹、脚にかけて走る冷たい床の感触。身体の後ろで縛られた両手首。全身に広がる暴行の痛み。
記憶の中を散り散りに漂っていた情報が、一つひとつ、パズルのように形を帯びていく――。
暗闇に浮かび上がる男の、高揚した気味の悪い顔。
男が手にした煙草からのぼる白い煙。胸元へ伸ばされる汚ない手。
そして、素肌に押しつけられた、焼けるような激痛。
――はっ……はぁっ……お前の、せいだから、なっ!
自分の上で乱暴に腰を振る男の、上擦った耳障りな声。そして、遠のいていく意識の中で見た、あの人の姿。
――りょ、こ……ちゃ……。
こちらに首をひねった彼女の声を思い出した瞬間、突然の吐き気に襲われ、涼子はトイレに駆けこんだ。胃酸が逆流してくるのがわかる。
「……っ、うぐ……」
三人の男の捌け口にされていた彼女の小さな顔は、覆いかぶさる男以外の二人が吐き出した汚液で白く濡れていた。
自分のせいで、彼女はあんな目に遭った。あの頃は、そんな罪悪感に押し潰されて自分自身が壊れそうだった。だから、彼女が幸せそうに語っていた恋人の存在を認識しながら生きていくことも、当時の涼子には耐えがたいことだった。
心の奥底に隠して鍵をかけ、十一年間ずっと仕舞いこんでいた過去の記憶。一度だって忘れたことはない。しかし、無意識に遠ざけようとしていた。
その存在が、よりによって、なぜ彼なのだろう。世の中には人が溢れているのに、どうして彼なのだろう。
ついさきほどまで彼で満たされていた場所が、あの男に強引に押し広げられた感覚を思い出す。
「うっ……く……」
涼子は何度も嘔吐した。

