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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

***

 夕方になると、西嶋の出勤に合わせてマンションを出て、車で自宅まで送ってもらった。
 シャワーを浴びようと思ったが、なんだか急に眠くなってきた。少しだけ――とベッドに横たわれば、よほど疲れていたのか、すぐに睡魔に襲われた。まどろみに浸ることもなく、身体に染みついた彼の香りを感じながら眠りについた。


――栗色のミディアムボブに、ふわりとした女性らしい服装。男の人の腕の中にすっぽりとおさまってしまうのではないかと思わせる、小柄な身体。
 ああ、彼女がいる……。

――ボトラーズ?
――うん。蒸溜所のオフィシャルボトルじゃないの。
――偽物ってこと?
――ううん。オフィシャルの蒸溜所から樽で原酒を買いつけて、独自に商品化して再販する瓶詰業者があるのよ。
――これは、ボトラーズが瓶詰めしたシングルモルトなんですね。
――そう。この蒸溜所は、もともとブレンデッドウイスキーの原酒を造るために建てられたから、オフィシャルボトルは販売されてないの。
――ふうん。どこにあるんですか?
――スペイ川を挟んで、ザ・マッカラン蒸溜所の対岸にあるのよ。
――へえ。なんて読むんですか?
――それはね……クレイゲラキ。


「……っ」

 突如目に入ってきた、自宅の寝室の天井。
 心臓が騒がしい。その振動で全身が波打っているかのように。

「はあっ……」

 やっとのことで大きく息を吸い、吐き出す。窓のほうへ視線をやると、カーテンの隙間から差しこむ夕日が窓辺を薄明るく照らしている。うたた寝していたのだと、ようやく自分の置かれた状況を把握する。
 今のは夢だ。あの酒棚を見たときによぎった悪い予感が、勝手に脳内で形を帯びただけ。そう言い聞かせても、記憶に嘘をつくことはできない。

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