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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

「どうした。顔色が悪いな」
「ううん、大丈夫よ」
「……そうか」
「あ、ねえ」
「ん?」
「これ、なんて読むの?」
指差したボトルに視線を移した西嶋は、一瞬思案すると、こう答えた。
「クライゲラキ、かな」
「そっか……私の読み方で合ってたのね」
意図せず漏れたのは、ため息混じりの声だった。なんだかひどく安堵している自分がいることに、涼子は気づく。
「それがどうかしたか」
「見慣れないボトルだから、気になっただけ」
「ああ。もともとはブレンデッドのキーモルトとして造られているものだからな。ボトラーズでたまに目にするくらいで、このオフィシャルボトルも一昨年発売されたばかりなんだ」
「どうりで見慣れないわけね。……ボトラーズはないの?」
「ああ……うん。飲みたかったら仕入れとくよ」
「ううん、いいの。そういうわけじゃないから」
歩み寄ってきた彼の広い胸に顔をうずめると、思いのほか強く抱きすくめられた。心を支配しかけた、残酷な予感をかき消すように……。
食後のコーヒーに癒されたあとは、リビングのソファーでただ肩を寄せ合って、ぽつりぽつりと他愛のない話をしながらのんびり過ごした。
長い脚を組んでソファーの背もたれに身体を預けている彼が、ふと遠い目をした。シンプルなルームウェアで寛いでいるだけなのに、まるでファッションモデルのようなその姿に見惚れてしまう。それに気づいた彼が、妙に色気のある流し目をよこした。
「なに」
「あ、ううん」
平静を装って答えながら、涼子は身につけているTシャツの裾を軽く引っ張った。
彼が貸してくれたTシャツは大きい。ソファーに座っても、ショーツが見えないくらいには。しかし、ただ一緒に過ごすだけの時間に素脚を晒しているのは、ベッドの中ですべてを晒すより恥ずかしい気がする。

