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わたしの肢体
第1章 新本一花(13)
こーき
《無事ついた? まだ痛い?》
 


 舌を出してピースするやんちゃそうな坊主頭の若者が写ったアイコンと、その下に表示されたふきだしを真顔で見つめる、ヘアアイロンで念入りにまっすぐ伸ばした長い前髪で隠れた、切れ長の瞼をした一花の、鼓動とは反比例して静寂に満ちた瞳。
 
 思い出したかのような、股間の奥の痛み。
 鼓動に合わせてじんじん全身に広がる、初めて痛み。

 痛い?
 問われて一花はひとり、肢体をぶるっと震わせた。
 ピアスの刺さる耳たぶのあたりに、こーきの湿ったてのひらの温度が蘇った気がしたからだ。



 脈動のない瞳と地続きした脳内で、こーきの笑顔が着火剤となり、一花の全身の血液が静かにぶくぶくと音を立てて沸騰しはじめる。


 一花は顔を上げ、そのつぎに腰を上げ、静かに立ち上がる。
 それからワックスのかかっていないざらついた床板に靴下の裏を引っ掛けながら、台所の奥にあるもうひとつの襖戸をそーっと引いた。
 真っ暗い子供部屋はつめたい新鮮な空気で満ちていた。
 耳の中の爆音と、文字を考える汚れたばかりの脳内は繋がっていないように思えた。
 まっすぐに引き伸ばした髪をいじりながらスマートフォンをいじり、こーきに返信を打った。


♡いっか♡
《ついたよ。 大丈夫。 もうぜんぜん、痛くない。 心配してくれてありがとう。》




 脳の中に焼き付いた数時間前の出来事を遠い昔の色褪せた思い出のように鑑賞しながら、今度はじぶんの手で耳たぶを埃を払いのけるように二度乱暴に撫でてから、一花はもう一度、ぶるっと肢体を震わせた。



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