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わたしの肢体
第1章 新本一花(13)
 引き抜いて、摩擦に耐え切れず破裂した皮膚から流れ出る血液と体液により痛々しい色と形になったサナエの股間を、サナエの醜い顔がきちんと写る角度で撮影して、本日の奴隷の功績をすべて確認しながらニタニタ笑って、それから謝礼の額を想像しながら脱ぎ捨てた衣類をすべて拾い上げ、布団の上で啜り泣くサナエを一瞥してから六畳間の襖戸を開き、一人で勝手にシャワーを浴びて、あとは生気のない若者の顔に戻りながらださいチェック柄のシャツとベージュのチノパンを身に着けて、玄関へ向かう。
 そしてぼさぼさの髪を気にすることもなく、サナエの身を案ずることも、もちろん愛することも思いやることもなく、冷たくて重たい音を鳴らしながらドアを締める。
 
 足音をカンカン鳴らしながら鉄階段を駆け下り、アパートのすぐ下に停めていた自転車に鈴の音を鳴らしながら鍵を差し、足を上げてまたがってペダルを漕ぎ出す。

 薄暗い夜の住宅地に、薄暗いしゅうちゃんの背中が消えていく。

 ぐんぐんスピードを上げると冷たい夜風が濡れた髪のあいだを通り抜け、そのあいだにしゅうちゃんは冴えない19歳のフリーターの顔に戻り、スマホをいじりながら仮想現実のなかへ、帰っていく。


 
 いつも、いつも、一花の母親であるサナエは、しゅうちゃんと、そんな日常を繰り返しているからだ。




 憂鬱すぎる日常の隙間を埋めるように、一花は襖戸を静かに締め切る。
 そして意識的に溜息をつき、耳にイヤホンを差し込む。
 イヤホンはしゅうちゃんと同じ機種のスマートフォンに突き刺さっている。
 それはつまり、サナエから買い与えられたものだった。

 指先の向こう側に存在する仮想現実が一花と現実を切り離す。
 その時だった。
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