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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第1章 『 フォンダン ショコラ 』

キラキラした朝日とは裏腹に
風は、肌をさす冷たさだった。
そんなに離れてないのに……、
本当に風、強いなぁ。
同じ県内で、隣の市に移っただけなのに
こんなにも違うのだと、わたしは驚いていた。
ベランダからは、海は見えないけれど
この風の強さを感じるたびに
海に近づいた気がしていた。
わたしは、くしゃくしゃになった髪を
右手で押さえつけた。
洗濯を干し終えて、
空を眺めていた。
今日は、雲一つない
澄んだ空だったから。
「あ~、もうだめ。」
わたしは、鼻をすすりながら
部屋へ入った。
ガラスの扉をひいて、
一歩、部屋に入ると
暖かさに包まれた。
ラジオからは、
ハイテンションのDJが
曲を紹介していた。
あ~、
もう洗濯、終わっちゃったよ。
わたしは、心の中でつぶやいた。
だって、部屋にはわたし一人だから。
夫は、6時前に家を出て行った。
今朝の朝食は、
枝豆のおにぎりに
豆腐、ほうれん草、たまごのみそ汁。
ヨーグルトにりんご。
夫は、いつも10分足らずで食べてしまう。
「あのさぁ~、
ちゃんと噛んで食べてる?」
「うん、食べてる。」
そう言って、夫はもう着替えを始めている。
わたしは、ニュースを観ながら
「ねえ、今日は?」
「遅い。」
はぁ。
と、小さくため息をついた。
こいつ、どんだけ
仕事、好きなんだ。
「眠かったら、先に寝るね。」
「了解。
じゃ、行ってきます。」
右手に、会社のスマホ、
左手に、自分のガラケーを持って、
「忘れ物ない?
大丈夫?」
「大丈夫。」
夫は玄関に向かっていた。
「いってらっしゃ~い。」
ニュースを観ながら、
声だけをかけた。
わが家の朝は、
毎日こんな感じだった。
ニュースを観終えたら、
のろのろと立ち上がり、
洗濯を干す準備をする。
今日みたいな寒い日は、
某ファストファッションの店の
フリースを着て、
洗濯ものを干す。
はい、家事、1つ終了……。

