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Only you……
第3章 麻都 2

「え、うん、まぁ……」
何と答えてよいのか分からず、曖昧に濁す。明がどうしたというのだ。
「じゃあ、いいですよね?」
「う、うん?」
拒否できないような威圧感。
りんがにやりと不気味に笑ったのを、俺は見逃さなかった。
「今夜は私に付き合っていただきます」
その瞬間、会社を突き抜けるような叫びが上がったのは言うまでも無い。その声の主はもちろん俺だ。
「あ、明が待ってるのに?!」
「仲良くやっているのなら、一晩くらい離れても大丈夫でしょう?」
「やっと仲良くなったのにぃ?!!」
目の前が真っ暗になった。
プルルルル――。
俺は半べそをかきながら自宅へ電話をかける。留守番中の明に連絡するためだ。連絡の内容は――。
『もしもし?』
電話口から怯えたような声が聞こえてきた。間違いなく明だ。突然鳴りだした電話に怯えているのだろう。
「あ、俺だけど……」
『麻都? どうしたの?』
心なしか明の声が明るくなったような気がする。それは、電話の相手が知り合いだと判明したからなのか、それとも……。
「うーんとね、今日ちょっと遅くなるから、飯いいわ」
『そうなんだ、分かった』
「ごめんな。先に寝てていいから」
じゃあと言って電話を切る。いつも夕飯を作ってくれる明に、断りの電話をかけるのは心苦しかった。自然と重苦しいため息が漏れる。
「用は済みましたね? では行きましょう」
りんがすっくと立ち上がり、自分のコートを羽織る。そして俺に上着を着させる。俺は仕方なくそれに袖を通した。
会社を出るともう既にタクシーが俺たちを待っていた。それに乗り込むと、俺は再び嘆息する。
りんに誘われるということは、目的地はただ一つ。今までその場所以外に2人で出かけたことはない。そしてそこに、タクシー以外で行ったこともない。
タクシーを降りると、もうその地は目前。俺はさらに大きなため息。
「はあぁぁぁぁ……」
「何ですか? そのため息は」
「だってなぁ」
そこは居酒屋だった。

