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Only you……
第3章 麻都 2

「見舞いには行かないって伝えてって言われた」
「別にいいよーだ。明がいるもん」
明がまたぼそっと「ばか」と呟いた。もう口癖になりかけてる。
「もう、休んでろよ」
そう言いながら、明は俺の額に手を当てる。熱があるのか確かめているようだ。無いことが分かり、明は立ち上がった。
「じゃ、オレ夕食の準備しに行くわ」
「ダメ」
俺は手を伸ばし、明の服の裾を掴んだ。そして、イヤイヤと首を振る。
「傍にいて」
掴んだ袖をくいくいと引っ張ると、明は困ったような表情を見せた。
「……オレが傍にいても良いこと無いよ?」
控えめに上目遣いで言った。その仕草に俺の胸は高鳴る。
「いるだけで幸せだよ」
「……」
顔を真っ赤に染めながら、目を見開いて、明は俺を見た。耳まで赤い。そして恐る恐る、俺のもとへと戻ってくる。
「……ばかっ」
小さく呟いたのが聞こえたけど、聞き流す。
「ねぇ、歌、歌って」
「えっ! オレ何にも知らないよっ」
慌てて明は大きく左右に首を振る。無理だと。
「子守唄くらい歌えるだろ? ほら、ねーんねーん――ってやつ」
「……知らないよ?」
頭に疑問符を浮かべた姿が嘘には見えなかった。
――でも、普通知ってるよな?
明がこの前言ってた「色々あって」というのが原因なのか。じゃあ色々って何だ?
これはきっと、今追及するべきことではないだろう。明が話したくなったら、話してくれればいい。そればで、俺は待つことにしよう。
「歌は勘弁な?」
すまなそうに顔の前で両手を合わせる明。俺は苦笑した。
「じゃあ……何かお話して」
「話?」
今度は首をひねって考え始める。「うーんっ」と唸りながら。
「明のこと、話して」
「オ、オレのことぉー!!?」
大げさに反応してみせる。俺は明のことが、何でもいいから知りたいのだ。
「好きな色は?」
あまりに悩みこんでいるので、質問してみる。
「えー、ん……黒、かな?」
「じゃあ、好きな食べ物は……?」
話しながら、だんだんうとうとしてくる。
「オムライス!!」
「したら、好きなタイプは――?」
「へ……!」
俺も眠りについた。最後の言葉は、殆ど寝言に近かった。

