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Only you……
第3章 麻都 2
「……んんっ」

目をこすりながら辺りを見回す。寝室のベッドの上だった。広いベッドの端で、胸のあたりに重みを感じた。首を持ち上げ見てみる。もう体はだるくなかった。熱もないと思う。

視線の先――俺の胸の上には明の頭があった。すっかり眠っているようで、静かな寝息をたてている。柔らかそうな髪。綺麗な髪、顔。

自然に手が伸び、撫ぜた。無意識に顔に笑みが浮かんでいく。

「……ぁんっ?」

ゆっくりと目を開き、俺の顔を焦点の定まらない瞳で見る。そしてだんだんと目を見開いて――。

「あぁぁー!! ご、ごめん!! 寝ちゃったよっ」

慌てて起き上がり、絶叫した。つられて俺まで驚きの声を上げてしまった。それから顔を見合わせて笑った。

「ふふ、明、初めて笑った……」

「え? そう?」

俺は初めて、明の笑顔を見た。嘲笑や、皮肉な笑みではなく、可愛らしい心からの笑みを。

「あはははっ! 何か楽しいや」

明の笑顔が、俺の力になってゆく。いつまでも守っていきたい。これだけは嘘や希望にはしたくない。夢でもなんでもない。俺の義務であり、そうする責任も持っているだろう。

「明……」

「ん?」

涙を浮かべながら明が俺を見る。

「腹減った」

タイミングよく、腹がくぅーっと鳴いた。

「すぐ作るよ! 何食べたい?」

「明ぁ!!」

「ば、バカ! 毒でも盛ってやる」

顔を真っ赤に染めながらどすどすと足を踏み鳴らして、居間へキッチンへと消えていった。




――俺はずっと、自分の人生を呪っていた。



――どうしてこんなに不幸なんだろう?って。



――でも俺って、実は、




――かなりの幸せ者なのかも。
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