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Only you……
第7章 麻都 4
点滴の液は、あと3センチ程になっていた。

「……ん――」

ゆっくりと瞼を持ち上げ、おっさんが目を覚ました。視線だけをサイドテーブルに向けると明が用意した林檎が飛び込んだのか、手を伸ばした。林檎は水分を多く含んだ音をたてて割れた。

「……ぬるい」

あれから30分近く経っている。温くなってしまった林檎を責めることはできないだろう。文句を言いながらも、おっさんは黙々と口を動かしていた。

「貴正、麻都くんと明くんが来ているよ」

透真はおっさんが起き上がろうとするのを、ゆっくりと手伝った。背中を支え、腕を引く。

「……!」

その顔は青白く、頬はこけていた。目も心なしか窪んで、病人の雰囲気丸出しだ。それでもおっさんはにっこり微笑むと「来なくていいって言ったのに」と悪態をついた。

「来てたなら起こしてくれてもいいじゃないか」

凹んだ頬を膨らませながら、おっさんは言った。怒ったような表情をしながらも、目は笑顔のままだった。

「大事な話があるんだ……」

俺は重い腰を持ち上げ、いつになく真剣な表情でおっさんを――社長を見つめた。向こうもそれに気付いたのか、いつの間にか笑みが消えていた。

ほんの少しの沈黙。一瞬の躊躇い。目が泳いでいたに違いない。

「俺、明と愛し合ってるから。会社継ぐから。休んでいいから」

俺の後ろでは、きっと明は驚いた顔をしていたに違いない。

おっさんはふと視線を俺から外すと、明の方を見た。俺の額に汗が浮かぶ。

「明くん……君は麻都を愛しているのか?」

ちらりと俺の後姿に視線を送ったようだったが、俺は振り向かなかった。俯いたまま、拳を握っていた。

「愛して……ます」

それはきっと、勝気な瞳を真っ直ぐに、真剣な表情で告げたに違いない。

おっさんはふっと顔を緩ませた。俺は認められたのだと安堵した。


「麻都、お前は分かってないようだな」

おっさんの言葉に、俺は必死の顔を上げた。その先には大きな上司が、厳しい父がいた。

「私の心配など必要ない。お前はもう少し、周りに目を向けたほうがいい。お前を包む、多くの人間がいることに」
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