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Only you……
第7章 麻都 4

俺は今までおっさんが歩んできた道を、教えられている範囲で伝えた。明は始終驚いた表情を崩さず、相槌やなんかを全く挟まなかった。時々、唾を飲み込む重たい音が聞こえる。ベッドに向かい合わせに腰掛け、俺は俯いていた。明の方も同じような体勢で、黙りこくっている。その間が辛かった。
俺が「何でもない」と誘いを取り消そうとした時、明が口を開いた。
「行くよ……バイト遅れるって連絡してくる」
明は腰を浮かせると、俺の目をしかとみて部屋を出て行った。電話でもかけてくるのだろう。
俺の心は一向に晴れない。明の気持ちも信じることが出来ない。疑心暗鬼に陥っているようだった。もう何も、信じられない。それはまるで、高校時代に戻ってしまったようだった。
ベッドに横になると布団の下で膝を抱えた。ぎゅっとキツく、キツく。不安で堪らなかった。孤独で苦しかった。傍には明がいるのに、心は少しも軽くならない。
人生を誓えるほど、俺は誰かを愛することが出来るのだろうか。
俺はそのまま、眠りに落ちていった――。
――と。……さと。……きてよ、麻都。
「麻都!! 起きて!!!」
思い切り叩かれ、その衝撃によって俺は飛び起きた。目を見開いたままベッドの上に座り、固まっている。
「病院……行くんだろ?」
俺としたことが、いつもの時刻になっても目が覚めなかったようだ。情けない。最近やたらと自分の情けなさに気付かされる。
俺は明に愛想笑いを浮かべると、「悪い」と言って起きた。いつも通り顔を洗い、サラダとトーストを食べ、スーツを着た。明の方はもう既に準備完了のようで、俺が忙しなく動き回っているのを眺めていた。監視されているようで、気分が悪かった。
「行く……か?」
起床後1時間程度で、完全に支度は終えた。俺は控えめに明に尋ねた。正直なところ、あまり行きたい気分にはなれない。
「……うん」
玄関のドアは、パタンと閉められた。

