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Only you……
第7章 麻都 4

――愛はするし、されるもの……。
――愛するっていうし、愛されるともいうからな……。
りんに言われた言葉を何度も反芻しながら家路に着く。結局答えは見つからないまま、今日も過ぎてしまう。このままではおっさんに合わせる顔がない。
「……ただいま」
暗い気分で玄関の扉を開く。居間の方はばたばたと足音が聞こえているが、出迎えにきてくれる様子はない。仕方なく俺は居間に顔を出さずに向かい側の寝室にゆき、簡単な格好に着替えを済ませる。
なんだか妙にイライラしていた。考えなくてはいけないことが多すぎて、自分ではどうにもならなくなっていた。このままでは八つ当たりしてしまいそうだったが、抑える術もない。
俺は居間の戸を静かに開けた。
「腹減った」
とりあえず、平静を装ってみる。長くは続かないだろうが、初めから不機嫌では明もやりにくいだろう。
明は台所で忙しなく動いていた。
「ごめん! 今日帰ってくるの遅くなっちゃって、まだ出来てないんだ! あと15分くらい待って」
右手を顔まで上げて謝罪のポーズをとると、またすぐに台所へと消えていった。
「じゃ、先に風呂はいるわ」
「あ!! お湯張ってない!!」
カランッっというボウルかなにかを落とすような音が聞こえた。それはまるで、合図のようだった。
「なんで用意できてないんだよ……」
「だから帰ってくるの遅くなって……」
「うちのこともきちんと出来るって言ったから、バイトに出したんだぞ」
「でもっ……」
「今朝だっていなかった!!」
明が何か言い返そうと台所から出てきた。しかし俺の怒りを湛えた表情を見て唖然と立ち尽くしていた。
「あ、さ、と?」
震えるような声で、俺の名前を呼んだ。
俺はふと我に返り、散々怒鳴り散らしてしまったことに気がついた。
「悪い……。飯いらない。もう休むわ」
作り笑いを浮かべて、俺は寝室に引っ込んだ。そうでもしなければ、また何を言い出すか分からない。俺は自分のコントロールが出来なくなってしまっていた。

