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Only you……
第7章 麻都 4

「では、お先に失礼します」
腰を45度に曲げ、いつも通り礼をして帰ろうとするりんを、俺は「あ、待って」と言って引き止めた。りんは不振そうな表情を浮かべて俺に近づいてくる。
「何か?」
眼鏡のフレームがキラリと光った。天井のライトが反射したのだろう。
「あ、のさ……」
声を掛けたのはいいが、何と聞いていいか分からずどもってしまう。りんは腕時計をちらりと見た。
「今日はデートなので早く帰りたいんですが」
上司に説教されている気分だった。もちろん実際の立場は逆だったが。
「おっさんのことだけど、入院しただろ?」
「……」
りんはふうと溜息をついて、回転椅子をズルズル引っ張ってきた。それにどかりと座り込み、俯きながら話す俺をじっと見ていた。
「それで、会社を継がなくてはなぁと思うんだけど……愛ってなに?」
唐突にそう切り出してみた。前置きを上手く使おうかと思ったが、俺にはそこまでのテクニックがなくだらだらと話が長くなっただけだった。
「そういうことは、ご自分でお考え下さい」
りんは椅子から立ち上がり眼鏡を片手で直した。
「でも! これが分からなかったら、社はどうなってしまうんだ?!」
「そんなの、崩壊に決まってるじゃないですか。社長のいない会社ってありえませんよ」
「だったら……!」
俺は机にしっかりと手をついて立ち上がった。どうしても教えて欲しいのだ。もう頼れるのはりんだけ。りんが頼りなのだ。
「麻都さんは、明くんを愛していないんですか?」
りんは首をやや傾け気味にして尋ねてきた。俺の心は揺れた。
――そんなこと……。分からないから聞いてるんだろ?!
いつまでも答えない俺に、痺れを切らしたりんが口を開いた。
「ヒントは、恋はするもの。でも愛は、するものでも、されるものでもある、ということですね。恋されるって変でしょ?」
りんは軽く手を振ると、部屋から小走りに出て行ってしまった。

