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Only you……
第7章 麻都 4

「思っていたよりも元気そうでよかったわ」

そんなことを言いながら、勢いよく部屋のドアを開けたのは、他でもないりんだった。グレーの上着を右腕に掛け、左手には黒いハンドバックを持っていた。どちらもそれなりに値を張る海外のブランド品だった。

ハイヒールを鳴らして上着をハンガーに掛けると、俺の方を向いて驚いたような顔をした。

「あら? いらっしゃったんですか?」

初めの言葉は独り言だったようだ。

「平日なのに出社しなくていいんですか?」

皮肉をたっぷりと込めて言ってやった。しかしりんはそれを鼻で笑うと、口元をキュッっと上げた。

「てっきりダメージ受けてお休みかと思いました」

「……」

俺の様子など、りんにはお見通しのようだ。一々隠す必要がないのは楽だが、隠したくても隠せないのは難点だ。

俺は「はぁ」と力強く息を吐き出し、苦笑いを浮かべた。

りんに聞きたいことがある。今朝家で考えたことだ。ズバリ愛とはなにか。それが分からなければ会社は継げない。そうなるとおっさんは落ち着かないだろう。

俺は話し掛けるタイミングをうかがっていた。りんの方をちらちらと確認しては、りんと目が合う。向こうも気付いているのだ、俺が何か言いたがっていることに。しかしそれは全てかわされてゆく。

意を決して話し掛けようと息を吸い込んだその時――。

「あんまりジロジロ見ないで下さい」

俺の決意は撃沈した。

しかしそれからも俺は様子を見ていた。なんとかこのことを聞かなくてはならないと、気持ちばかりが前へ前へと進んでゆく。お昼時も、休憩も、仕事の合間も、コーヒーを煎れてもらったときも、結局はチャンスを逃してしまった。ついてない。その一言で諦めるしかなかった。
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