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Only you……
第7章 麻都 4

「おはようございます、副社長」

会社へ到着すれば、そんな声があちこちから掛けられる。俺は適当に返事をしてエレベータに乗り込むと壁に力なくもたれかかった。動き出した箱に揺られながら目的地へと辿り着き、鞄をだらしなく持ち上げるといつもの部屋へと足を向けた。

 ガチャ――。

大きな扉を、大きな音をたてて開ける。その向こうに人影はなかった。いつもならばりんが睨みを利かしているのに、その姿がなかった。りんも遅刻だろうかとも思ったが、今までりんが連絡なしに遅刻してきたことは1度もない。寝坊などとは無縁のタイプだった。

カツカツと足を踏み入れると、ふと机の上に置かれたメモに気がついた。

「病院に行ってきます」

それだけが几帳面な字で綴られていた。差出人はりんに違いない。

俺は上着を脱ぎながら読み終えると、メモを丸めてゴミ箱に捨てた。

どかりと回転椅子に座り込み、ぐるりと回転させる。背中にあった窓が正面に現れ、外の景色が視界に入り込んでくる。街路樹が規則正しく並び、その脇を数人の人が通り過ぎてゆく。自動車は淡々と走り、一定の間隔で信号に引っかかる。時には止まらなくて済むように、信号の手前で加速する車もあった。

――こんな景色、おっさんも見ているんだろうな。

――何十年もこの景色だけを見ていくなんて、どんな気持ちなんだろうか。

幼少時代、学校へもまともに通えず、毎日病院から窓の外を見て過ごしていたと言う。あまり変化の見られない風景。こんなものだけを見て終わったその期間は、おっさんの心に何を残したのだろうか。

俺は感傷に浸っていた。

おっさんのことを心配しているとみせかけて、自分を守っているだけかもしれない。

どのみち、仕事が手につかないことは明らかだった。つい別のことを考えてしまう。明のことだって、何度も頭を過(よ)ぎる。


一体俺は、どうしたらいいのだろうか。
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