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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参

お民は川べりにしゃがみ込んで、水面を見つめていた。もう、どれくらの間、そうやって飽きもせず川面を眺めているだろう。
脚許の小石を拾っては川に落とすと、小さな波紋が渦を巻く。そんな単純なことが面白くて、まるで小さな子どものように、同じことを何度も繰り返している。何度目かに小石を拾おうとした時、水面からちょこんと雨蛙が顔を出しているのを見つけ、お民は微笑んだ。
「―可愛い」
兵太もこうやって、川面を見て一人で遊んでいたのだろうか。無邪気に川面に見入る我が子の姿を思い描き、お民は胸を熱くした。
子ども、子ども。
本当に長い間、待ち望んでいた子どもだった。兵太を失って以来、兵助との間にも子はできなかったし、源治と所帯を持っても、子はできなかった。もう自分は石女になってしまったのかと、内心子どもを授かることは諦めていたのだ。
それなのに、御仏は気紛れなことをなさる。
望みもしないときに、惚れた男の血を引くわけでもない子どもを授けて下さったのだ。
兵太を十六の歳で生んで以来、九年ぶりに身籠もった子は、旗本石澤嘉門の種であった。しかし、腹の子に愛情を感じるどころか、疎ましくさえ思っていた矢先、腹の子は流れ、お民は流産した。
子を失って初めて、お民は己れの罪深さに気付いた。たとえ父親が誰であろうと、対内に宿った新しい生命は紛れもなく我が子なのだ。何故、生きている間に、日毎に育ちゆく生命にもっと母らしい情愛を抱けなかったのかと悔やんだ。
そして、今、再びお民の腹に新しい生命が宿った。
そこまで考えた時、お民の胸に言い知れぬ哀しみが湧いた。
どうしてなのだろう。どうして、自分だけがこんな哀しい目にばかり遭うのだろう。
身体の異変に気付いたのは、半月ほど前のことだ。六月に入る頃から、胃の調子が悪かった。むかむかとして、食が進まない。とはいっても、去年、嘉門の屋敷で経験したような烈しいものではなく、ごく軽いものだった。だから、初めは食あたりか、急に暑くなったための暑気当たりかと思っていたのだ。
脚許の小石を拾っては川に落とすと、小さな波紋が渦を巻く。そんな単純なことが面白くて、まるで小さな子どものように、同じことを何度も繰り返している。何度目かに小石を拾おうとした時、水面からちょこんと雨蛙が顔を出しているのを見つけ、お民は微笑んだ。
「―可愛い」
兵太もこうやって、川面を見て一人で遊んでいたのだろうか。無邪気に川面に見入る我が子の姿を思い描き、お民は胸を熱くした。
子ども、子ども。
本当に長い間、待ち望んでいた子どもだった。兵太を失って以来、兵助との間にも子はできなかったし、源治と所帯を持っても、子はできなかった。もう自分は石女になってしまったのかと、内心子どもを授かることは諦めていたのだ。
それなのに、御仏は気紛れなことをなさる。
望みもしないときに、惚れた男の血を引くわけでもない子どもを授けて下さったのだ。
兵太を十六の歳で生んで以来、九年ぶりに身籠もった子は、旗本石澤嘉門の種であった。しかし、腹の子に愛情を感じるどころか、疎ましくさえ思っていた矢先、腹の子は流れ、お民は流産した。
子を失って初めて、お民は己れの罪深さに気付いた。たとえ父親が誰であろうと、対内に宿った新しい生命は紛れもなく我が子なのだ。何故、生きている間に、日毎に育ちゆく生命にもっと母らしい情愛を抱けなかったのかと悔やんだ。
そして、今、再びお民の腹に新しい生命が宿った。
そこまで考えた時、お民の胸に言い知れぬ哀しみが湧いた。
どうしてなのだろう。どうして、自分だけがこんな哀しい目にばかり遭うのだろう。
身体の異変に気付いたのは、半月ほど前のことだ。六月に入る頃から、胃の調子が悪かった。むかむかとして、食が進まない。とはいっても、去年、嘉門の屋敷で経験したような烈しいものではなく、ごく軽いものだった。だから、初めは食あたりか、急に暑くなったための暑気当たりかと思っていたのだ。

