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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参
「馬鹿だね。なにを歌舞伎か浄瑠璃芝居のような科白言ってんの。好きなら、惚れてるなら、何も考えないで男の胸に飛び込んじまえば良いんだよ。好いた惚れたに、難しい理屈も厄介な言い訳も要らないんだ。あんたを元どおりに迎えるかどうかは、あんたの決めることじゃない。あんたの男が決めることだろ、え? そうじゃないかえ」
 女が弾かれたように顔を上げる。
 眼が合った刹那、女将は微笑んだ。
 やはり、澄んだ良い瞳をしている。
 引き込まれそうなこの瞳に、たった一瞬で惑わされる男は多いだろう。この女を亭主から奪い、攫ってきたあの男もそんな魅せられた男の一人といったところか。
「お行き。もう、二度とあんなつまらない男に捕まるんじゃないよ。女を人間とも思っちゃいない、屑のような男に良いようにされちまうほど情けないことはないからさ」
 女が女将を物言いたげに見つめる。
「礼なんぞ要らないから、さっさと行きな。あの男は夕刻また来ると言ってたけど、いつ気が変わるともしれないから」
「―ありがとうございます。ご恩は忘れません」
 女が深々と頭を下げた。
「ああ、恋しい亭主と仲良くやるんだよ」
 その言葉に背を押されるように、女は階段を小走りに駆け下りてゆく。
「柄にもないことを言っちまったかねえ。これで、大事な金蔓を逃がしちまったってことになるけど、まっ、良いか」
 女の背を見送りながら、女将は苦笑した。
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