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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参

倅に身代を譲った後は、恋女房にも先立たれ、倅の嫁と折り合い悪しく家を出た。女将は隠居が家を出る前から既に一軒家を与えられていて、隠居はその妾の許へ引っ越してきた。
隠居はそこで亡くなるまでの数年を過ごし、最期を看取ったのも女将一人であった。危篤状態であることを告げても、倅はおろか、奉公人一人、店からは来なかった。亡くなった翌朝、奉公人と倅が来て、法外な金包と引き替えに、隠居の亡骸を引き取っていった。
―この金で、今後、当家とも店の方とも一切、拘わりはご無用にお願いします。
つまりは手切れ金ということだ。
今にもくたばりそうな爺ィを押しつけやがって、最後まで面倒を見させたには少なすぎる額だと思ったが、口にはしなかった。
隠居からはずっとまとまった金を貰っていたし、それらは殆ど手を付けずに貯めていた。特に隠居の世話料というのは出ていなかったが、たかだか老人一人の面倒を見たからといって、それほど金はかかるものではなかった。あの生っ白い倅や高飛車な番頭はいけ好かないが、隠居その人は良い人だった。流石に一介の行商人からたたき上げた苦労人だけあって、人の心、人情というものを心得ていた人だった。
女将のことも実の娘か孫のように可愛がってくれた。深川の遊廓で出逢った頃はともかく、晩年は時々、褥の中で裸の女将を腕に抱いて眠るだけで、男女間の営みも殆どなくなっていた。
妾時代に溜めた金を元手に今の商売を始めたのが、ここの女将になるきっかけだった。
そんな女将であってみれば、あまたの商売女を眼にしてきたが、この女の美しさは並ではない。
―それに、膚のまぁ、きれいなこと。
光り輝くというのか、しっとりとした真珠を思わせるようなつややな光沢のある膚。肌理は細やかで、男の愛撫で桜色に色づけば、より美しかろう。
何より、瞳が良かった。内面の光輝が滲み出ているというのか、女の優しさとか人柄の良さといったものが冴え冴えとした黒い瞳に表れている。
隠居はそこで亡くなるまでの数年を過ごし、最期を看取ったのも女将一人であった。危篤状態であることを告げても、倅はおろか、奉公人一人、店からは来なかった。亡くなった翌朝、奉公人と倅が来て、法外な金包と引き替えに、隠居の亡骸を引き取っていった。
―この金で、今後、当家とも店の方とも一切、拘わりはご無用にお願いします。
つまりは手切れ金ということだ。
今にもくたばりそうな爺ィを押しつけやがって、最後まで面倒を見させたには少なすぎる額だと思ったが、口にはしなかった。
隠居からはずっとまとまった金を貰っていたし、それらは殆ど手を付けずに貯めていた。特に隠居の世話料というのは出ていなかったが、たかだか老人一人の面倒を見たからといって、それほど金はかかるものではなかった。あの生っ白い倅や高飛車な番頭はいけ好かないが、隠居その人は良い人だった。流石に一介の行商人からたたき上げた苦労人だけあって、人の心、人情というものを心得ていた人だった。
女将のことも実の娘か孫のように可愛がってくれた。深川の遊廓で出逢った頃はともかく、晩年は時々、褥の中で裸の女将を腕に抱いて眠るだけで、男女間の営みも殆どなくなっていた。
妾時代に溜めた金を元手に今の商売を始めたのが、ここの女将になるきっかけだった。
そんな女将であってみれば、あまたの商売女を眼にしてきたが、この女の美しさは並ではない。
―それに、膚のまぁ、きれいなこと。
光り輝くというのか、しっとりとした真珠を思わせるようなつややな光沢のある膚。肌理は細やかで、男の愛撫で桜色に色づけば、より美しかろう。
何より、瞳が良かった。内面の光輝が滲み出ているというのか、女の優しさとか人柄の良さといったものが冴え冴えとした黒い瞳に表れている。

