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助教 沙霧
第8章 仮面の日常(2)
沙霧は、いつも以上に念入りに「仮面」を作り上げた。下着は、肌を締め付けるような、飾り気のないベージュのスポーツブラと機能的なショーツ。その上に、首元まで隙間なくボタンのあるネイビーのシャツを重ね、厚手のウールパンツを履く。肉体の曲線を可能な限り殺し、色気を排したその装いは、彼女にとっての「戦闘服」だった。
大学の正門を潜ると、冬の朝の冷気が心地よく頬を刺す。
この寒さが、彼女の理性を辛うじて繋ぎ止めていた。
その日は、修士課程一年の学生たちに向けた、和歌の翻刻法に関する特別演習の助手の日だった。演習室に入ると、十数名の学生たちが、沙霧の登場とともに一瞬で私語を止めた。彼女が醸し出す、近寄りがたいほどに峻厳な空気が、室内の温度を数度下げたかのようだった。
「今日扱うのは『千載和歌集』巻十四、恋歌四の断簡です。まずは、変体仮名の判読から。佐藤君、最初の一行を」
沙霧の声は、一点の曇りもなく、澄み渡っていた。
教壇に立ち、学生たちの稚拙な回答を冷徹に正していくその姿は、昨夜、床に這いつくばって自分を慰めていた女と同一人物だとは、到底信じがたい。
だが、教鞭を振るう沙霧の指先は、時折、自らのノートの端を強く掴んでいた。
教材として提示した和歌が、よりによって「秘めたる恋」を詠んだものだったからだ。
大学の正門を潜ると、冬の朝の冷気が心地よく頬を刺す。
この寒さが、彼女の理性を辛うじて繋ぎ止めていた。
その日は、修士課程一年の学生たちに向けた、和歌の翻刻法に関する特別演習の助手の日だった。演習室に入ると、十数名の学生たちが、沙霧の登場とともに一瞬で私語を止めた。彼女が醸し出す、近寄りがたいほどに峻厳な空気が、室内の温度を数度下げたかのようだった。
「今日扱うのは『千載和歌集』巻十四、恋歌四の断簡です。まずは、変体仮名の判読から。佐藤君、最初の一行を」
沙霧の声は、一点の曇りもなく、澄み渡っていた。
教壇に立ち、学生たちの稚拙な回答を冷徹に正していくその姿は、昨夜、床に這いつくばって自分を慰めていた女と同一人物だとは、到底信じがたい。
だが、教鞭を振るう沙霧の指先は、時折、自らのノートの端を強く掴んでいた。
教材として提示した和歌が、よりによって「秘めたる恋」を詠んだものだったからだ。

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