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助教 沙霧
第5章 通勤路 ~電車内の妄想~
 周囲の人間は誰も、この「氷の才女」が、満員電車の雑踏の中で淫らな昂ぶりに震えているなどとは思いもしないだろう。沙霧は視線を斜め下の床に固定し、必死に無表情を保とうとした。だが、思考は制御を失い、加速していく。

 もし、この群衆の中に誉が混じっていたら。
 彼はその静かな瞳で、苦痛と快楽の狭間で喘ぐ私の無様な姿を、じっと見つめているのではないか。

 ――いいですよ、師よ。そのまま、他人の肉に押し潰されなさい。

 脳内で響く誉の声は、低く、冷徹で、慈悲深い。

 ――貴女の高潔な学問も、その短い髪を掻き乱す羞恥心も、ここでは何の役にも立たない。貴女はただの、一人の「女」として、ここで私に屈するのです。

 妄想の中で、誉の手が沙霧の腰を強く引き寄せ、耳元で淫らな和歌を囁く。

『思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ……』

 小野小町の歌が、誉の低音で再現される。思い続けて眠りについたから、あの人が夢に現れたのだろうか。もし夢と知っていたら、目など覚まさなかったのに。。。
 
 今の沙霧にとって、この混濁した現実こそが夢であり、誉の支配する妄想こそが唯一の真実だった。
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