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あの日 カサブランカで
第2章 ーあの日 カサブランカでー

 回廊から漏れ差すステンドグラス窓越しの鮮やかな淡い光と、バスルームから聞こえる水音とで麻美は眼が醒めた。

 ソファに圭一の姿はない。

 手元の時計を見るとまだ6時を過ぎたばかりだった。

「あ、起こしちゃったかな… おはよう」

「おはようございます」

 顔を拭きながらリビングへ戻ってきた圭一に声をかけられて、素顔の麻美は恥ずかしそうに朝の挨拶をした。

「眠れた?」

「はい、お蔭さまで… ありがとうございました」

「ドラキュラ出てこなくてよかったね」

(日本から遠く離れた誰も知らないこの町で、深夜に無防備で飛び込んできた若い女にこの人は指一本触れることさえしなかった…)

(いや、部屋へ招じ入れられたときの肩にそっと置かれた手の優しさは忘れられない…)

暗がりの中で明るく笑う圭一の顔が麻美には限りなく眩しかった。



「ありがとうございました!」

 デュベを整え、深々と頭を下げると麻美は明るくなりかけた回廊へ出て、自室へ戻った。

 灯りのついていない部屋は昨夜出たままの、洞窟を思わせるような暗がりだったが、照明を灯すと物語に出てくるアラビアの情景が広がるようで、いくらか落ち着きを取り戻せた。

 勢いの弱いシャワーを浴び、顔を洗って薄く化粧をする。

 簡単な身支度を整えた頃には吹き抜けを通してパティオから食器の音が聞こえてきた。

 改めて圭一の部屋を訪ねた麻美は、一緒に回廊の階段をゆっくりと下りると、ちょうどテーブルのセッティングをしていた女性オーナーと会った。

 全面にモロッコタイルが貼られた大きな丸テーブルには、モザイクタイル風デザインのモロッコブルーが映える『コセマ』というフェズの窯元の食器が並べられ、両面に同じ柄が施されたフェズ刺繍のコースターやテーブルマットが眼の醒める美しさで配置されている。

「よく眠れましたか?」

「はい、ぐっすり」

 彼女の問いかけには圭一が応えてから、麻美の顔を見て悪戯っぽい眼で微笑んだ。

「オムレツを用意していいかしら?」

 セットのメニューを簡単に紹介してからオーナーはそう訊ねると、鈍く光る錫製のティーポットから紅茶を注いでくれた。

 トップライトからやわらかく落ちる朝の光の下、小さな植物園のような中庭での朝食は麻美にとって初めて経験する忘れがたいアラビア文化のひとコマだった。

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