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あの日 カサブランカで
第2章 ーあの日 カサブランカでー

(あの子もカサブランカに泊ったのだろうか…)

 翌朝、遠慮なく街に響くクラクションの音で目が覚めた圭一は、昨日イミグレーションで見かけたきり忘れていた若い女をふと思い出していた。 

(声をかけてもよかったかな…)

 日本から遥かに遠い異国でわずかに滲み出た後悔はまもなく予期しない展開を見せることになる。



 カサブランカから急行列車で3時間半ほどの、世界一の迷宮都市と言われるフェズを、ドバイに駐在している間に圭一はどうしても訪れてみたかったのだ。

 通勤時間を過ぎた列車はよく空いていて、コンパートメントと呼ばれる6人用の指定席個室にも同室者はいなかった。

 列車は首都のラバトを過ぎて内陸に入り、最後尾のデッキから単線の線路が開けた草原の中に続く景色を眺めていると、そこが日本ではないことをふと忘れそうになったが、席へ戻るとコンパートメントにはいつのまにかひとりの男が座っていた。

 一瞬緊張したが、英語で話しかけられた圭一が日本人であることを告げると、彼は少し驚いたような笑顔を見せて、自分が食べかけていたパンを半分ちぎって差し出してくれた。

 無下に断るのも申し訳ないと思ってしまうのが日本人の騙されやすいところで、危険かもしれないことと知りつつ、圭一はそのパンを受け取ると礼を言って口にした。

「フェズへ行くのなら、知っているガイドを紹介するよ」

 列車がフェズへ近づくと男は、携帯電話でそのガイドに連絡を取ってから圭一に彼の名前と携帯の番号を書いたメモを渡してくれた。

 そこでも彼は礼を言って受け取ると男は「良い旅を」と笑顔で応え、やがて速度を落とした列車はフェズの駅へゆっくりと入っていった。



 日本の古い地方都市のどこにでもあるような変哲のないフェズの駅である。

 圭一は乗ってきた列車やホームの風景を写真に収めると、すっかり旅客のいなくなったホームから地下道をくぐって改札を出た。

 高い天井があるホールは壁や柱に施されたアラビアタイルを除けば、これも日本の駅とそれほど違いはなかったが、アーチの架かる回廊と屋上に国旗の掲げられた駅舎はまさしくイスラム建築そのものである。

 駅前ロータリーをひと巡りしてその駅舎を振り返った圭一の眼にそのとき、スーツケースを脇に置いて柱の陰で携帯電話をかけている小柄な女が眼に入った。

(あの子だ!)

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