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あの日 カサブランカで
第2章 ーあの日 カサブランカでー

ー第2章 あの日 カサブランカでー

(ここでハンフリー・ボガードがバーグマンを見送ったんだ…)

 そんな感慨を覚えながら村木野圭一はタラップを降りるとカサブランカ空港の小さなターミナルビルへとゆっくりと歩いていた。

 乗ってきた中型航空機のドアが開いてもボーディングブリッジがつながれることはなく、乗客は地上の白いコンクリートの上を歩かされたのだったが、予想していなかったそれが圭一にはかえって嬉しかった。

 35歳になり、請け負ったプロジェクトの設計責任者として現場に駐在しているドバイを朝に経ってから8時間が過ぎていたが、3時間のマイナス時差があるカサブランカはまだ昼過ぎである。

 日本の地方空港よりもはるかに古びた暗いターミナルビルは、それすら彼にとっては映画のシーンを彷彿とさせてくれるものだったが、写真撮影が許されないその光景を眼にしっかりと収めながらイミグレーションへ進んだ。

 そのとき2列隣のブースで赤いパスポートを手にした若い女が、東洋人などまずいないだろうと思っていた彼の眼に入ったのである。

 まだ名前も知らない宮原麻美を圭一が見た初めての瞬間だった。

 少し質問の多かった入国審査を終え、預け荷物受け取りのターンテーブルへ向かうその背を見送りながら、彼女を待ってみようかとも一瞬思ったが、預け荷物のない彼はそのまま検査場を何ごともなく通過すると空港をあとにした。

 

 電車で30分ほど揺られ、カサブランカの玄関口であるカサ・ヴォヤージュ駅に着いた圭一は、黒い大きなリング照明が吹抜けのドーム天井から提がったモロッコ建築の趣を感じるホールを見上げて、建築に関わる者であれば誰しもが訪れる東京駅丸の内北口を想い起こしていた。

 駅舎の外の街は、普段暮らしているドバイのダウンタウンとあまり変わらない白い土壁の建物が広がるアラブの景色が広がっている。

 駅前の風景を眼に焼き付けながら、圭一は革のボストンバッグを抱えてゆっくりと歩き始めた。
 
 スマートフォンなどまだなかった頃のことである。

 英語があまり通じないモロッコでは地図と勘が頼りで、大西洋に傾く夕陽を受けた列柱の影がパティオに広がるハッサン2世モスクを見終えて、駅に近い小さなホテルに着いたときには、ナトリウム灯のオレンジ色の光が暗い街の中に浮かび上がっていた。

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