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あの日 カサブランカで
第1章 ー彼ー

ー第1章 彼ー

(村木野圭一 …)

 授業を終えて研究室に戻った宮原麻美は、いつものようにデスクに届いていた建築誌の目次を見ながら、寄稿論文のひとつにその珍しい苗字を見つけて思わず椅子に座りなおした。

 麻美は姿勢を糺すと掲載されている論文より先に、末尾の筆者紹介ページを繰った。

 太いゴシック体で書かれた村木野の名前に続けて、所属する大手の建設会社の名と設計統括部長の肩書が記されており、生年月と略歴や主な作品が紹介されていた。

 村木野圭一 …

(あの人に間違いないわ…)

 もう一度、復唱するように見返したその名前は、麻美の記憶の中に忘れることなく刻まれて20年近く心のどこかで探し続けていた人のものだと確信した。

(こんなに近いところにいらっしゃったなんて…)

 それまでネット検索に思いが至らなかったことを今さらながら悔いた。

 大学の建築学科を卒業して43歳になった今、母校で准教授を務める麻美にとって多感な学生時代に遠い異国の地で出会った彼は、進路を迷っていた自分のその後を決める大きなきっかけを与えてくれたのだった。



 麻美が通っていた大学は建築の世界ではあまりメジャーではなかったが、当時まだ建築学科に少なかった女子学生として成績も優れていたし、何よりも向学心が高かった。

 そんなことから教職員にも可愛がられていた麻美は大学院を出て研究室に残るように薦められていたのだったが、自分で設計をしたかった彼女は選択を先送りしたまま3年生の冬に、かねてから興味のあったアラビア建築を訪ねる短い旅に出たのだった。

 アルバイトでお金を貯め、航空機代が安くなる12月のクリスマス前を狙って、彼女が選んだ訪問地は北アフリカのモロッコだった。

 建築もさることながら、高校生の頃に観た映画『カサブランカ』に魅せられていたことも大きな理由だったのである。

 親には、調査研究のために複数の友達と行くのだと嘘をついてひとりで出かけたのだが、慣れてもいない海外に若い女子学生がひとりで行くことの危なさをあとになって知ることとなり、その時に助けられたのが村木野だったが、自分の不注意もあって彼とは連絡を取ることができずにいたのだった。

  

あれからもう20年が経とうとしている…

印刷の乾いた活字を眼で追いながら、麻美はその時のことを想い起こしていた。


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