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あの日 カサブランカで
第3章 ー行き違いー

 翌日の1月2日、普通の月明けと同じ朝が始まった圭一は早速に大きな課題に直面した。

 海外プロジェクトではよくあることと知ってはいたが、発注者の事情による設計変更を余儀なくされたのである。

 大筋の対応は日本の本社で行なうのだが、細部の仕様は現地の事情に合わせて彼が決定しなければならなかった。

 日本のように阿吽の呼吸が通じる文化はなく、作業員を遊ばせているわけにはいかなかったから短時間での最適解を求められる緊迫した日々を送ることになり、麻美のことに想いを馳せる余裕はほとんどないうちに日が過ぎていったが、同じころ東京では麻美が頭を抱えていたのである。



(どうして? どうして無いの?)

 圭一からもらった名刺が見あたらないことに麻美が気づいたのは、予定どおりクリスマス前に自宅に帰って彼にメールを打とうとした時だった。

 パスポートケースにはさんでおいたはずの名刺がそこになかったのだ。

 パスポートを出し入れしたのは、カサブランカとリスボン、それに成田の空港でだけのはずだった。
 
 乗り継ぎのドバイやシンガポールでは出していないはずだ。

 そう振り返りながらスーツケースの中を隈なく探してもみつからなかった麻美はうろたえた。

(どうしよう… どうすればいいの?)

 名刺にはドバイの駐在先の住所などが書かれていたが日本の勤め先は記されてなく、それを訊ねることもしていなかった自分の迂闊さがあまりにも悲しかった。

 建設会社に就職した先輩にドバイのプロジェクトを持っている会社を調べて、村木野という人を探してみることもできなくはなかったが、あまりにも漠然としていてそれは思いとどまった。

 忘れることのできないときめくような想い出だったが、体を交えたわけではなかった。

(もしかして大学へ連絡をもらえるかもしれない…)

 淡い期待だけを頼りに年末年始の休みを実家で過ごしている間に、麻美は卒業後の自分の進路を決めなければならない現実の中に引き戻されていった。



 カサブランカで別れてから20年…

 教育の道に進むのなら実際に一度現場経験を積んでからのほうがいいよ、というフェズの町で圭一からもらったアドバイスによって、麻美は設計事務所に勤めていくつもの設計と現場を経験したのち、招かれて母校で教鞭をとることになったのだった。

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