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あの日 カサブランカで
第4章 ー再会ー

ー第4章 再会ー

(こんな大手の設計統括部長だなんて…)

 あの日の彼は精悍さと落ち着きを兼ね備えた優秀な若手技師の印象を醸していたが、55歳くらいになっているはずの今はどんな風になっているのだろうと思った麻美がインターネットで検索をしてみると、そこには昔の面影を残したままの風格ある近影がいくつか現われた。

 講演会でステージに立つ姿、雑誌のインタビュー写真…

 どれもが凛々しくて麻美には眩しく映った。

(やっぱりこんな立派になられたんだ…)

 あの時彼はまだ独身だと言っていた。

(名刺さえ失くしていなかったら…)

 一度結婚に失敗していた麻美は、そう思いながら思わず自分に苦笑いした。

 フェズでのあの日、まだ失恋の痛手を負ったままでいた麻美は、隣に寝てくれた圭一に抱かれたいとさえ思ったのだ。

 首の下から抱くようにして胸に置かれた掌のトレーナー越しの暖かさと、それに重ねた自分の手の重さはいまだに忘れることはない。

 その手は次にどう動くのだろうかと少しだけ身構えていたが、幼子の添い寝をするように頬を寄せていた彼はそのまま何もすることはなかった。

 世の中にはそんな男もいるのだ、とその時初めて思ったのである。



 午後の講義を終えて研究室に戻った麻美は、気持ちを鎮めるとスマホを取り出した。

 ゆっくりと彼の会社の代表電話の番号を押す。

 短いコールのあと、流れるガイダンスに従ってつながった設計本部の代表で彼女は村木野の名前を告げると、彼は会議中とのことだった。

 不在を予想していた麻美は電話口の相手に訊ねられるまま自分の名前と携帯を伝え、かけなおす旨を告げて電話を切った。

(会ってみたい…)

 まだ会えることが決まったわけでもないのに、麻美はドア脇にある姿見の前に立っていた。

(おばさんだわ…)

 鏡を見ながら思わずため息が出た。

 

 デスクに戻り、代表電話が通じるうちにもう一度かけてみようと思っていた麻美のスマホが不意に震えた。

“はい…”

 知らない番号だったが、何度が鳴ってから名乗らずに出る。

“村木野と申します。 宮原さまでよろしかったでしょうか?”

 20年ぶりに聞く彼の声だった。



 震える手でスマホを持つ麻美の横顔を、研究室の窓から差し込む12月の短い西日が穏やかに照らし出していた。

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