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いまやめないで このままでいて
第7章 第7話 もう離れない 離さないから
「沙耶っ!」
追い抜きざまに沙耶のスカートをめくって走り去ろうとした同学年の2人は、怒鳴りながら勢いよく傘を振り回す美樹也に追い払われ、途中のぬかるみで転んだ1人がランドセルの中身を農道にぶちまけていた。
「大丈夫か?」
「うん…」
沙耶はスカートをめくられた時にしゃがんだはずみで擦りむいた膝頭からわずかに血が滲んでいた。
「あいつらの担任の先生、誰だっけ?」
「いけうち先生…」
「あした、言っとく」
「あたし言うからいいよ、もう」
沙耶は少し付いてしまったスカートの泥を払いながら美樹也を見上げて言った。
沙耶と美樹也の家は少し先の住宅地の道路を挟んで斜め向かい同士だったから、幼い頃から兄弟のようにして育ってきた。
小さい頃、沙耶は美樹也を呼び捨てにしていたが、小学校に入ると“おにいちゃん”と呼ぶようになるよくある情景だった。
「痛くない?」
「ちょっとだけ」
「おんぶしてやる」
美樹也は、自分のランドセルを前に負うと、沙耶に背を向けた。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫!」
「ありがと」
最後に美樹也に負ぶわれたのはいつだっけ、と思いながら沙耶は5分ほどの距離の彼の背中を楽しんでいた。
沙耶が3年生、美樹也が5年生になったばかりの頃のある雨上がりの学校の帰り道は、ウシガエルの声が入道雲の成長する夏空にこだましていた。
沙耶が5年生になる頃、卒業と同時に美樹也が外交官の父親の転勤で家族とともに日本を離れてからは顔を合わせるとはなかったのだ。
初めのうちは手紙を交わしていたが、それからは何度か彼が帰国することがあっても会うことはなく、時折交わすメールでのやりとりだけがふたりをつないでいた。

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