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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第6章 答え合わせ

教室から廊下へ出ると、秋の風が袖を揺らした。
薄手のパーカーや長袖シャツを羽織る子と、まだ半袖のままの子が入り混じっている。
視聴覚室へ向かう列は、どこか緊張と照れくささが混ざったような空気をまとっていた。
「じゃあ静かに移動するぞー。後ろの人、戸締まり確認してなー」
滝本先生の声が響くたびに、ざわついた空気が少しだけ引き締まる。
こよみは佳乃と並んで歩きながら、何度か秋空を見上げた。雲が高く、澄んだ光が窓から差し込んでいた。
視聴覚室に入ると、テレビの前に並べられた椅子に男女が交互に腰を下ろす。
テレビのスイッチが入ると、画面が青白く点いた。
「今日は、“からだの変化と成長”についてのビデオを見ます。これは、君たちがこの先経験することを、あらかじめ知っておくためのものだ。
ちょっと恥ずかしい内容もあるかもしれないけど、大事なことだからな。しっかり見よう!」
先生の声に、岡田がこらえきれずにくすりと笑った。
隣の山下がひじでつつく。司馬は、眉をしかめることなく前を向いたままだ。
ナレーションが流れ始めた。
「思春期に入ると、体にも心にも、いろいろな変化が訪れます。
これは自然な成長のあらわれで、誰もが通る道なのです」
映し出される男女の体のイラスト。
胸の膨らみ、体毛、声変わり。
生理、射精、妊娠。
淡々とした声と、整った図解。それでも、教室とは違う静けさが、空気を張りつめさせていた。
こよみは、画面をまっすぐ見ることができなかった。
目の端で、佳乃が指先を組んでいるのが見えた。
佳乃の爪が、少し白くなるほど、きゅっと力がこもっていた。
「避妊とは、妊娠を防ぐための方法です。
その一つに、“コンドーム”があります。使用することで――」
その単語が流れた瞬間、何人かの男子が一斉に咳払いをした。
こよみの鼓動が、耳の奥でどくんと鳴る。
映像に映る見慣れた物体と、その用途を説明する声が、肌の下を這うように入り込んでくる。
“よく知ってる”。けれど、“ちゃんとは知らない”。
そして、ぼんやりと重なった。
――毎夜、父が手にしていたもの。
胸がじんと痛むようだった。体が固まって動かなくなっていた。
佳乃が、こよみの手の甲に、そっと指先を添えた。
それだけで、こよみはなんとか座っていられた。
薄手のパーカーや長袖シャツを羽織る子と、まだ半袖のままの子が入り混じっている。
視聴覚室へ向かう列は、どこか緊張と照れくささが混ざったような空気をまとっていた。
「じゃあ静かに移動するぞー。後ろの人、戸締まり確認してなー」
滝本先生の声が響くたびに、ざわついた空気が少しだけ引き締まる。
こよみは佳乃と並んで歩きながら、何度か秋空を見上げた。雲が高く、澄んだ光が窓から差し込んでいた。
視聴覚室に入ると、テレビの前に並べられた椅子に男女が交互に腰を下ろす。
テレビのスイッチが入ると、画面が青白く点いた。
「今日は、“からだの変化と成長”についてのビデオを見ます。これは、君たちがこの先経験することを、あらかじめ知っておくためのものだ。
ちょっと恥ずかしい内容もあるかもしれないけど、大事なことだからな。しっかり見よう!」
先生の声に、岡田がこらえきれずにくすりと笑った。
隣の山下がひじでつつく。司馬は、眉をしかめることなく前を向いたままだ。
ナレーションが流れ始めた。
「思春期に入ると、体にも心にも、いろいろな変化が訪れます。
これは自然な成長のあらわれで、誰もが通る道なのです」
映し出される男女の体のイラスト。
胸の膨らみ、体毛、声変わり。
生理、射精、妊娠。
淡々とした声と、整った図解。それでも、教室とは違う静けさが、空気を張りつめさせていた。
こよみは、画面をまっすぐ見ることができなかった。
目の端で、佳乃が指先を組んでいるのが見えた。
佳乃の爪が、少し白くなるほど、きゅっと力がこもっていた。
「避妊とは、妊娠を防ぐための方法です。
その一つに、“コンドーム”があります。使用することで――」
その単語が流れた瞬間、何人かの男子が一斉に咳払いをした。
こよみの鼓動が、耳の奥でどくんと鳴る。
映像に映る見慣れた物体と、その用途を説明する声が、肌の下を這うように入り込んでくる。
“よく知ってる”。けれど、“ちゃんとは知らない”。
そして、ぼんやりと重なった。
――毎夜、父が手にしていたもの。
胸がじんと痛むようだった。体が固まって動かなくなっていた。
佳乃が、こよみの手の甲に、そっと指先を添えた。
それだけで、こよみはなんとか座っていられた。

