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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第11章 月下美人のデカダンス
外の雨音と、葵の啜るような浅い息だけが暗闇に響いていた。

ぼんやりと見える震える葵の姿に、裕樹の胸にじりじりと焦りが広がっていった。

葵の真意を確かめなければ、この夜が永遠に失われるような気がして、意を決したように、裕樹は口を開く。

「…葵ちゃん、泣いてた?」

ハッとしたように葵の震えはピタッと止まり、雨音だけが重たく流れる。

ほんの数秒が、やけに長く感じられた。

「……っ、泣いてない……」

掠れた声は、否定というより、自分に言い聞かせているように聞こえた。

(いや泣いてるじゃん…。)

喉元まで出かかったその言葉を押し戻す。

これ以上踏み込むなと、暗黙に突き放されたようで──沈黙の時間は余計に気まずさを加速させていく。

裕樹は言葉に詰まりながらも、なんとか口を開く。

「嫌だった…?」

「……」

「痛かった…?」

どちらの問いにも答えは返ってこない。

静寂の時間が裕樹に重くのしかかる。

大きな雷鳴や雨音が恋しく思えるほど、外は静まり始めていた。

その静けさに胸のざわめきが募り、裕樹は言葉を探し続ける。

すると、伏せていた葵が体を起こし、裕樹との間に人一人分のスペースを開けて隣に体育座りをした。

胸を抱え、繭に包まれたように縮こまる姿は、闇に溶けているはずなのに──肩の線や腕の陰影だけが、かすかに残って見えた。
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