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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第12章 過ぎ去りし爛れ
あの夜から数日が経った。

熱い抱擁は永遠には続かず、急いで小屋の中を片付けて、二人はプレーパークを後にした。

家に戻り、鏡に映った裕樹の背中には、今も葵の爪痕が赤く刻まれている。

腕を回された感触が昨日のことのように蘇り、息苦しいほど鮮やかに抱擁の余韻が残っていた。

お互いにその後連絡を取ることはなかった。

葵のスマホに収められたはずの、あの夜の淫靡な記録は待てども送られては来なかった。

撮影はただの演出として消されたのか。

スマホの充電が切れたことによって記録されていなかったのか。

葵が送らないという選択をしたのか。

その真意を確かめるべくチャットを開くと「ココを見つけるのを手伝って欲しい」と泣きつかれた葵からの着信履歴で会話は止まっていた。

「あの動画、送ってくれない?」

「もう一度…会えない?」

何度も文字を入力しては、送信するのを躊躇い、文字を削除する。

助けを求めてきた葵を、自らの欲望に巻き込んでしまった罪悪感。

もう一度抱きたいと渇望する、どうしようもない未練。

もし拒絶されたなら、永遠に閉ざされるという恐怖。

その三つが裕樹の思考をループさせて、気付けば夏休みが明けていた。

葵と再び学校で顔を合わせても、交わされる言葉はなかった。

あれだけ激しく重なったことを知る者は誰一人いない。

側から見れば、何事もなかったかのように日常が続いている。

裕樹はその平穏さが、滑稽にすら感じた。

葵がつけた背中の爪痕は消えてしまっても、プレーパークの近くを通るたびに可惜夜がフラッシュバックする。

触れられない虚しさと、忘れられない激しさが、裕樹を縛り続けていた。
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