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社長は彼女の“初めて”を知っている
第2章 一夜
でも、現実の私は──誰かに触れられたことすら、なかった。

「……誰かに抱かれるってこと。知りたいんです。」

そう言った瞬間、唇の端が震えていた。

苦しくて、恥ずかしくて、でももう、引き下がれなかった。

どうして、皆、私を“触れちゃいけないもの”みたいに扱うの?

女として。
ひとりの人間として。

誰かに「愛される価値」が、自分にあるかどうかさえ、分からなくなる。

「誰かって、俺じゃなくてもいいだろ。」

加賀見さんが低く呟く。

それは、突き放すような声色だったのに──

どこか、自分自身を納得させるようでもあった。

私は、まっすぐに彼を見つめた。

(本当だ。私、なんで……この人じゃなきゃダメなんだろう。)
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