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第33章 命の恩人

「失礼ですが、息子さんはいらっしゃいますか？」


　お父さんが問うと、


「ええ、一人息子がいますよ。今はコンサルティング会社で部長を務めています。もしかして、息子の……慧の知り合いですか？」

「！」


　まさか、一ノ瀬さんのお父さんだったなんて！


「慧さんのお父様でしたか！　うちの長男が慧さんの部下でして、大変お世話になっております」


　お父さんは再び深々と頭を下げた。


「まさかこんな偶然があるとは、世間は意外と狭いですね」

「そうですね」

「それなら私もひとつ、聞きたいことがあるのですが……」

「なんでしょうか？」

「奥様はいらっしゃらないのでしょうか？」

「えっ？」


　一ノ瀬社長からの問いに、お父さんは目を丸くした。


「ああ、すみません……。お恥ずかしながら、妻とは数年前に離婚しまして……」

「そうですか……。立ち入った質問をしてすみませんでした」

「いえ……」


　まさかお母さんのことを聞いてくるなんて……。