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第33章 命の恩人

「大丈夫だよ、お父さん……」


　でも私はお父さんの顔をまともに見れず、目を伏せながら答えた。


「さて、ご家族の方たちも迎えに来たし、私たちはこれで失礼するよ」

「あの……この度は娘の命を救ってくださり、本当にありがとうございました。お陰様で大事に至らず、親として心から安堵しております。適切なご対応、感謝致します」


　お父さんは一ノ瀬社長に御礼を伝えると、深々と頭を下げた。


「いえいえ、気にしないでください。私は人として、当然のことをしたまでですから」

「後日御礼をしたいので、よろしければお名前を聞かせてくださいますか？」

「それならこちらを」


　瀬名さんがお父さんに名刺を渡したので、お父さんも自分の名刺を一ノ瀬社長に渡した。


「一ノ瀬……」


　やっぱりお父さんも驚いているみたいだった。


「どうかしましたか？　先程陽菜さんも驚いているみたいでしたが……」


　瀬名さんはお父さんに問いかける。


「いえ、知り合いにも一ノ瀬という方がいらっしゃるので……」

「そうだったんですか。確かに『一ノ瀬』は、なかなか見ない名字ですものね」