この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
大きなクリの木の下で
第12章 二度目の外泊許可

「覚えてくれていましたか?」
タクシーの運転手はバックミラー越しにニカッと満面の笑みを浮かべた。
「忘れるわけないじゃないですか
あなたがいなければ僕はあの暴漢に殴り殺されていたかもしれないんですから」
そう、何を隠そう、偶然にも飛び乗ったタクシーのドライバーが、美代子を救出する際に無謀にも飛び込んで、返り討ちにあって半殺しにされそうなのを、彼の機転で警察に連絡してくれたお陰で今があると言っても過言ではなかった。
偶然にも彼に出会えたことで
事件の事を再び思い出した。
美代子は今、どうしているのだろう?
見舞いに来てくれないことから彼女もまた、どこかの病院にまだ入院中なのだろうか?
ふと、あの日のタクシー代のことが気になって「そういえば乗車賃の支払いがまだでしたよね?」と尋ねてみた。
「いえ、いただきましたよ
あの後、タクシー会社に確か…ああ、そうそう雨宮さんって女性がお礼だと言って菓子折りを持ってきてくれて、その時にタクシー代もいただきました」
えっ?静香が?
何から何まで気のきく女性だ。
きっと静香の事だから美代子の入院先に見舞いにも行っている事だろう。
今度、病院に会いに来てくれたら美代子の事とかいろいろ話したい…
由里子に二股をかけられていて、
彼女の存在が一気に心の中から萎むと同時に、静香への情念が再び大きくなり始めた。

