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大きなクリの木の下で
第12章 二度目の外泊許可

風呂から上がると「さあさ、お食事の用意は出来ているわよ」と
体をクールダウンさせる暇もなく食卓に連れていかれた。
並べられた数々の品々は、どれもこれも精のつく料理ばかりだった。
これを食べて今夜も頑張るのよ
そんな風に言葉にせずともそのように圧をかけられている気になる。
今夜は前回とは違って竹本の身の上を事細かく尋ねてきた。
由里子と所帯を持てば、それなりに親戚付き合いも必要なのだからとご両親してみれば知りたいのだろうと思った。
竹本にしても隠しておく必要もないので洗いざらい白状する。
自分を産んで育ててくれた母は、とっくの昔に他界したこと。
その母と言うのが、ある人物の妾で、正式な夫婦関係ではなく身籠って出来たのが自分なのだと、まだ静香にも話していないことをたらふく飲まされたアルコールに負けてぶちまけた。
「まあ!では、そのお父様という方は?」
「父と呼んでいいものかどうか…でも、その男は元気に生きていますよ
元気すげてまだ働いています」
「その方とは音信不通なの?」
「相手は僕を息子と認めて自分の元に置きたがっています
その男には正式な夫妻としての子供がいなかったようなので…」
「じゃあ、お父様とは連絡を取り合っているのね?」
「連絡をするもなにも、その男と言うのが実は…」
ついつい饒舌になっている自分にハッと気づいて
その先は「まあ、そんなことはどうでもいいじゃありませんか」と言葉を濁した。
それまで黙っていた由里子の父親がゴニョゴニョと呂律の回らない言葉を発した。
「なんて?」
「きっと、その方も年老いてきて、戸籍上の夫婦に子供がいないのを悔やみ始めたんだろうなと言ってるわ」
そうかもしれない、あの男が竹本の前に姿を現したのは母の葬儀の日だった。
まだ小学生だった竹本は、急に現れた老人に「儂がお前の父親だ」と名乗られてもピンと来なかった。

