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大きなクリの木の下で
第8章 外泊許可

「それと…嬉しいお知らせがあるの」
「嬉しい知らせって?」
ジャジャーン!
ダサい効果音を口にして由里子さんは一枚の紙切れを竹本に見せつけた。
「なんだい?この紙切れは?」
「ちゃんと文面を読みなさいよ」
文面を読むにしても鼻先に用紙を突きつけられては内容なんて読めやしない。
竹本は、ようやく動かせるようになった左手で彼女の手から用紙を引ったくって文面に目を通した。
「おい、これって…」
「そうよ、外泊許可よ
ずっと狭い病室に閉じ込められているのも気が滅入るでしょ?」
「外泊ねえ…、やったあ!万歳!っと喜びたいところだけど
うちはあいにくとボロアパートだからバリアフリーでもないから、こんなものをもらったって帰るわけにはいかないさ」
「別にあなたの部屋に外泊しなくてもいいじゃない」
「ホテルとか?よしてくれよ金欠病なんだぜ
僕を襲った三人組にしたって、ここの入院費を賄ってもらえるかどうかも怪しいのにさ」
「お金なんていらないわ
だってあなたを我が家に連れて帰るんですもの」
「君の家に?」
「うちの父は数年前に脳梗塞を患ってしまってね
左半身が不自由なの
だから、介護しやすいようにバリアフリーに改築したの」
「いや、介護が必要なお父さんがいるのなら、なおさら君の部屋に厄介にはなれないよ」
そう言いながら、竹本の頭の中では静香のマンションなら部屋に行くまでにスロープが完備してあったから、彼女の部屋に厄介になるのもいいなと思っていた。
「でもね、私が外泊中のあなたをサポートするって約束で外泊許可をドクターにいただいたの
だから、この部屋から抜け出すんなら私の家以外の選択肢はないのよ」
どうせ彼女さんも忙しいのか見舞いにも来れなくなったみたいだし、この際、あの人の事なんか忘れてうちでのんびりしなさいよと、由里子は勝ち誇った顔をした。

