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わたしのお散歩日記
第13章 コロッケ
商店街の端に古い惣菜屋さんがある。油でコロッケを揚げている。コロッケの匂いが、熱気といっしょに風にのって漂ってくる。 その匂いを感じるたびによみがえる記憶がある。
高校生の頃、部活動が終わって駅に向かう途中のお店で、友だちとよく買い食いした。揚げたてのコロッケを紙袋に入れてもらって、お店の裏に置かれたベンチで並んで食べたものだ。そして、男子の品評のような、今思えばひたすら他愛もない話に花を咲かせていた。
その日も、いつものように友だちとコロッケを食べていると、彼女が声を潜めて言った。
「この前さ…」
「うん」
「しちゃったんだよね…」
「しちゃった?」
『何を?』と訊こうとして口をつぐんだ。思わず見た彼女の表情は、後悔したり悩んでいる風ではなかったから。そして、なんとなく彼女に先を越されたくはなかったから…。
『誰と?』と訊くのも怖かった。聞きたくない名前が聞こえてきそうな悪い予感がしたから…。
だからと言って、そのまま黙っているのも気まずかったから、言葉をつないだ。
「そうか…しちゃったんだ」
ただのオウム返しだけど一応球は投げ返した。
「うん…」
今度は彼女が言葉に詰まったようだった。わたしは思い切って訊いてみた。
「それで…どうだったの?」
そう訊いて、わたしはコロッケをかじった。さり気なさを装って。
「なんて言えばいいんだろうね…」
そう言って彼女はしばらくコロッケを見詰めていた。わたしは聞き耳を凝らしていた。
「怖かったけど、少し嬉しかったかも」
そう言って、彼女はコロッケをかじった。
(嬉しかったんだ…)
彼女からはもっとあれこれ訊いて欲しいというような気配が伝わってくる。わたしはそれが少し癪に障った。だからわたしは言ってみた。
「そうだよね、嬉しいよね」
今度は彼女がわたしの顔を見た。さも意外なような感じで。わたしはこのやりとりはこの辺で止めにするのがお互いのためにいいと思った。
「そかそか、よかったね。あー、コロッケやっぱり美味しい」
わたしは残りのコロッケを口に押し込んでベンチから立ち上がると、包み紙をゴミ箱に捨てた。
「さ、今なら『25分』に間に合うわ」
わたしは大げさに腕時計を見ながら、乗る電車を『55分』に遅らせたそうな彼女に言った。
高校生の頃、部活動が終わって駅に向かう途中のお店で、友だちとよく買い食いした。揚げたてのコロッケを紙袋に入れてもらって、お店の裏に置かれたベンチで並んで食べたものだ。そして、男子の品評のような、今思えばひたすら他愛もない話に花を咲かせていた。
その日も、いつものように友だちとコロッケを食べていると、彼女が声を潜めて言った。
「この前さ…」
「うん」
「しちゃったんだよね…」
「しちゃった?」
『何を?』と訊こうとして口をつぐんだ。思わず見た彼女の表情は、後悔したり悩んでいる風ではなかったから。そして、なんとなく彼女に先を越されたくはなかったから…。
『誰と?』と訊くのも怖かった。聞きたくない名前が聞こえてきそうな悪い予感がしたから…。
だからと言って、そのまま黙っているのも気まずかったから、言葉をつないだ。
「そうか…しちゃったんだ」
ただのオウム返しだけど一応球は投げ返した。
「うん…」
今度は彼女が言葉に詰まったようだった。わたしは思い切って訊いてみた。
「それで…どうだったの?」
そう訊いて、わたしはコロッケをかじった。さり気なさを装って。
「なんて言えばいいんだろうね…」
そう言って彼女はしばらくコロッケを見詰めていた。わたしは聞き耳を凝らしていた。
「怖かったけど、少し嬉しかったかも」
そう言って、彼女はコロッケをかじった。
(嬉しかったんだ…)
彼女からはもっとあれこれ訊いて欲しいというような気配が伝わってくる。わたしはそれが少し癪に障った。だからわたしは言ってみた。
「そうだよね、嬉しいよね」
今度は彼女がわたしの顔を見た。さも意外なような感じで。わたしはこのやりとりはこの辺で止めにするのがお互いのためにいいと思った。
「そかそか、よかったね。あー、コロッケやっぱり美味しい」
わたしは残りのコロッケを口に押し込んでベンチから立ち上がると、包み紙をゴミ箱に捨てた。
「さ、今なら『25分』に間に合うわ」
わたしは大げさに腕時計を見ながら、乗る電車を『55分』に遅らせたそうな彼女に言った。

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