この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第14章 人界の様子

(赤い痣が、消えている……)
鬼に吸い付かれて赤くなっていた肌も、いつの間にか元に戻っている。
「なして、あんなとこいた? お前さんの着物、上物だべ?あんた都から逃げてきた姫さんか?」
「…そ、それは」
女性の質問が畳みかけるように続く。返答に困っていた巫女は、ハッとして聞き返した。
「ここは都(ミヤコ)から近いのですか?」
「ああ、そうだ。馬で半日も走りゃ、都に着くよ」
巫女の胸に、衝撃が走った。
大蛇(オロチ)は誓いを守ったのだ。彼女を人界に、しかも都の近くに送り届けた。
(ですが、それはつまり──)
モノノ怪が人と交わす “ 誓い ” は、基本的に等価交換──彼女が都の近くに送られたということは、大蛇が彼女の身体にそれだけ満足したということ。
巫女の身体が震え、嫌悪と悔しさが胸を締め付けた。首筋に這った大蛇の指、ヌルリとした蛇の感触、気が狂いそうなほどの快楽の責め苦が……脳裏に蘇る。
「震えとるな、寒いべか?」
女性は心配そうに巫女を見やり、水の器を渡した。
「悪いが病人にやる薬はねぇ。食いもんもな」
「…っ…いえ、わたしは、問題ありません。ありがとうございます」
巫女は水を一口含み、冷静さを取り戻した。
そして彼女は女性の目を見つめ、静かに尋ねる。
「教えてください。この一年で、いったい何が起こったのですか?」
「ああ……」
女性は目を伏せ、ため息をついた。
「初めは日照りが続いて、作物が育たんくなった。稲は枯れ、川は干上がった。そんで、恐ろしい疫病も広まってな。そんなこんなで生活が苦しくなってった時に、士族(シゾク)のヤツらが都に攻めてきたんだべ」
「……」
「若い娘はみんな、都(ミヤコ)に居座ってる士族のやつらに連れてかれちまった。許せねぇさ」
巫女の顔が青ざめた。
鬼の館で見た、連行される人たちの姿が脳裏に焼き付く。
彼女が境界に囚われていた間に、人界は一変していたのだ。

