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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第14章 人界の様子


 ──…


 巫女が目を覚ますと、目の前に広がるのは古びた家屋の天井だった。

 煤(スス)けた梁に沿って、蜘蛛の巣が薄く揺れ、隙間から漏れる夕暮れの光が、埃の舞う室内をかすかに照らしている。小さな灯りが、土間の隅に置かれた火鉢で心もたげに灯り、薄暗い空間に暖かな橙色の揺らめきを投げかけている。家屋の壁は粗末な土壁で、ところどころ剥がれ落ち、葦で編まれたむしろが床に敷かれていた。

「あ、おきたね」

 そこで眠る彼女の隣には、年配の女性が座っていた。

 皺だらけの手には、粗末な布で拭かれた木の器が握られている。女性の顔は、風雨に晒されたような深い皺に刻まれ、しかしその目は優しく巫女を見つめていた。

「水をお飲み」

 女性は巫女をそっと起こし、器を差し出した。

「ここ、は……?」

 巫女は身体を起こし、辺りを見回した。

 身体は拭かれて清められ、彼女の華やかな着物は脱がされ、代わりに粗末な麻の衣に着替えさせられていた。麻の生地はざらつき、汗と土の匂いがほのかに混じるが、丁寧に畳まれた彼女の着物が、部屋の隅に大切に置かれているのが目に入った。

「……!」

 間違いない。ここは " 人界 " 。
 " 境界 " の外へ、彼女は出てきたのだ。



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