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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第2章 人喰い鬼の討伐

巫女が " 境界 " へ足を踏み入れた時、眼前に広がるのはボロボロのあばら家ではなく、美しく荘厳な屋敷であった。
(あやうく見落とすところでした…!ここまで違和感なく作られた結界は初めて。コレを張った鬼とはいったいどんな)
──どんな強大な力を持った鬼なのだろうか。
これまで退治してきたモノノ怪とは比にならない、嫌な予感が脳裏をよぎる。
「──…何者だ?」
「……っ」
中へ入ろうと彼女が足を踏み出すと、屋敷の中から、地を這うような低い声が投げかけられた。
姿は見えない
しかし確実に──こちらを真っ直ぐ射貫(イヌ)いている、冷たい視線が突き刺さる。
(なんて強い力…!こんな鬼、これまで対峙したことない)
その威圧の凄まじさに、巫女は少したじろいだ。
(でもおかしいわ。人を喰らうモノノ怪には…それとわかるおぞましい妖気が渦巻いている筈なのに。この鬼からはそういった気配がしない…?)
「…っ…あなたが都を騒がせている人喰い鬼ですか」
凛とした声で巫女が問う。鈴の音がリンと鳴るような…透き通った声だった。
「人喰い鬼?ああ……お前も、俺を退治しにきた類(タグ)いか」
屋敷の声の主は気だるそうに立ち上がり、ギイッ…と音をたてて戸を開けた。
巫女は息を呑む。
「あなたが……!」
そこに現れたのは、目を疑うほどの美しい容姿をした男だった。
白銀の長髪に、漆黒の着物。
整った鼻の下で弧を描く口の端には、ギラりと牙が光る。ふたつの黄金色の瞳が暗闇の中で冷たく光っていた。

