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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第2章 人喰い鬼の討伐

───
そこから長い旅路を終え、いよいよ山頂に着こうとする時。
「……!」
駕籠(カゴ)で運ばれていた巫女は、護衛の侍と運び手を止めた。
「ここまでで構いません。わたしを残して、皆さまは山を下りてください」
「…!?ですが巫女さま、急がねばもうじき日が暮れてしまいます。モノノ怪の力が強まる夜に、おひとりではあまりに危険です!」
「問題ありません」
「せめて夜明けまで我らと待機して…」
「いえ、夜でなければ鬼には会えぬのです」
「え…?」
「どうか、下山してくださいませ」
モノノ怪退治になれない兵たちを、危険な場に連れてはいけない。
反対する男たちを説得し、巫女はひとり山へ残った。
シャラ...
「──…さて」
シャラ...シャラ....
ゆっくりと山頂を目指し登っていく。
シャラ...シャラ...
日が暮れて、暗闇に包まれた山は不気味である。
動物の気配は全くなく、風さえも途絶えて、息を潜めているようだ。
ただ彼女が持つ錫杖(シャクジョウ)が揺れる音だけが、シンッ──と静まり返った山の中で、物悲しく鳴っていた。
──ザッ
(…見つけた。あれが鬼が住みついたと言われるあばら家ね)
立ち止まった彼女の前には、風雨にさらされボロボロの家屋が現れた。
人々が言うには、これが鬼の住処らしいけれど…
(やはり鬼の気配はない)
巫女は頭上を見上げ、木の葉の隙間から空に浮かぶ月を見た。
その月の角度から、今の時刻を推し量る。
時間はまさに、ちょうどのようだ。
──トンッ
彼女は片手に錫杖(シャクジョウ)を掲げ、それを地面に突き刺した。
....グラッ
「……っ」
するとどうだろう。
彼女を中心として空間が歪み、天地が一周するような奇怪な現象が辺りをつつんだ。
その中を巫女は歩き出す。
──ここは【 境界 】だった。
人の世と、鬼の世が交錯する場所。それは夜中のある時刻にだけ、特殊な条件下で現れる。

