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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第8章 鬼と巫女の攻防

巫女は縁側の床に座り、着物を引き寄せながら静かに答えた。
「少し周りに目を向ければ、身近なところに溢れています」
「……なに?」
「ですがそれも、悠久の時を生きるあなたたちには気付けないのでしょう」
彼女は深呼吸し、心を落ち着けた。冷たい縁側の床が、滝の水で冷えた身体に染みる。
「人の世は、鬼界と異なり、常に移り変わり…そして巡っています。朝と夜、春と冬、生と死……。だからこそ人は、それら一瞬を切り取り、慈しみ、心を動かすことができるのです」
先ほど咲かせた白い花も……いずれ土に還る
巫女はそう付け加えた。
鬼は難しそうに顔をしかめ、縁側の柱にもたれる。
「移り変わり……?そんなものに動く心など、俺には永遠にわからんかもしれん」
彼の声には苛立ちが滲むが、どこか彼女の言葉に引き込まれているようだ。
ふと、鬼が片手を空に掲げる。
「つまり、コレが良いのか」
───ッ
彼の長い指が夜空を切り裂くように動くと、突如としてあたりの闇が揺らぎ始めた。
「え……?」
空の果てが白み、まるで黒幕が引き剥がされるように光が広がる。
星々が一つ一つと消えていき、遠くの山々が金色の輪郭を浮かび上がらせる。鳥のさえずりがどこからか聞こえだしたかと思うと…徐々に響き合い、森の動物がざわめきながら木々の間を走りぬけた。
朝露に濡れた草葉はキラキラと輝き、風がそよいで花の香りが漂った。
夜が朝へと変わるその光景は、まるで天地が息を吹き返したかのように鮮やかさを放っていた。

