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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第5章 逃避の代償

 人の世と鬼の世が交錯するこの " 境界 " から抜け出すには、出口を隠す結界を破らなければならない。しかし鬼の結界は彼女の予想以上に広くあたりを支配していて、少しも弱まる気配がない。

「今のわたしの力ではっ……破れない」

 疲れ果てた身体が震え、膝が地面に崩れ落ちた


 ──その瞬刻、遠くから不気味な声が響く。


「ヒヒヒ……」

「──!?」


 巫女が顔を上げると、霧の向こうから複数の影が現れた。


 赤く光る目、鋭い爪。異形の姿をしたモノノ怪の群れ。

「あなた達…!」

 それ等は山に棲む低級なモノノ怪たちで、人の霊力を味わい、純粋な身体を穢すことに悦びを見出す下劣な存在だった。彼女の弱った気配を嗅ぎつけ、欲望にかられて群がってきたのだ。

「見ろよ、この女……清らかな匂いがする」

「ナンテ美味そうな身体だ!」

 モノノ怪たちはニタニタと笑みを浮かべ、舌なめずりをしながら彼女に近づいてきた。

「止まりなさい!」

 巫女は立ち上がり、壊れた錫杖を手に持つが、上手く霊力をあつかえない。

「邪(ヨコシマ)な気を持つ者よっ……!それよりわたしに近付くなら、神の御力で浄化します」

「ボロボロの武器でナニできるってんだ!脅しはきかねぇぞ」

「……っ」

「見りゃあ着物も脱げかけてんな?ナンダ?他の奴にヤラレた後かぁ?」

 舐めるように遠慮のない目が、乱れた服装の巫女を見て笑う。

 そのおぞましさに身体をすくめて固まっていると、あっという間に彼女は複数のモノノ怪に取り囲まれた。

(複数相手では勝ち目がない!)

 逃げるしかないと後ずさった瞬間、一匹が飛びかかり、鋭い爪が彼女の腕を切り裂いた。

「ううっ…!」

 血が飛び散り、痛みに顔を歪める。



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