この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第19章 鬼界の異変

「……!?」
「巫女! おらぬのか!?」
唐突に、外から誰かが彼女を呼んだ。
(わたしを呼んでいるの……?)
風邪で熱のある身体は重く、フラリとした足取りで、巫女は屋敷の外へ顔を出した。縁側の木の感触が、裸足の足裏にあたる。
「わたしはっ……巫女はここに」
縁側に出て声の主を探した。
すると屋根の上から転がるようにして小さな影が現れ、巫女の目の前で止まった。
「……っ」
「兄が大変なのじゃ!」
小さな身体が、勢いよく巫女の腰に抱きつく。
「…っ…あ、あなたは?」
そして巫女を見上げてきたのは、小麦色の髪をした少女だった。
大きな瞳は涙で潤み、頭の獣耳がピクピクと動く。彼女の小さな手が巫女の黒衣をぎゅっと掴んでいた。
(モノノ怪の女の子っ……?)
少女はモノノ怪だ。その必死な表情に巫女は動揺する。少女は歯を剥き出して叫んだ。
「わらわの兄が大変なのじゃ! 今っ…鬼界では…っ」
モノノ怪の兄妹。記憶の断片が、巫女の頭にひらめく。
「もしや──あなたは玉藻(タマモ)なのですか?」
「そうじゃ」
少女の正体は、以前この屋敷で出会った狐の兄妹、影尾(カゲオ)の妹、玉藻(タマモ)だったのだ。
「落ちついて! あなたのお兄さん──影尾はどうしたのですか?」
巫女は少女の肩に手を置き、落ち着かせようとした。
「──…呪いじゃ!」
玉藻の声に、切迫した響きが宿る。
「呪い?」
「鬼界を呪いが侵食しておる…! 影尾も襲われてっ……苦しんどる。どうすればいいか教えてくれ!」
その言葉に、巫女の顔が青ざめた。

